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【不労問題】AIに仕事を奪われてアイデンティティーが崩壊する日本人

社会

さて、これからの人類が直面する「2つのフロー問題」の一角、「不労」について書いていきます。

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進歩に限界が設定できないAIとロボット

世界の産業が今後どうなっていくかって言うと、そのほとんどがAIとロボットに取って代わられます。

……と言うと、相当シンプルな思考回路の持ち主のように思われるかもしれませんが、普通に考えたら当然なのですよ。

なぜなら、AIとロボットの技術は日々進歩し、世界大戦やとんでもない大災害などで文明がリセットされない限り後退はしません。つまり、時間を追うに連れ進化していくのです。その目標は(大雑把に言えば)人間に追いつくことであり、人間を追い越すこと。その方向に進歩し、かつ時間が無限にあるという前提であれば、必ずAIは人間に追いつき、追い越します。これを「シンギュラリティー」と呼びます。

「AIやロボットが人間に追いつけるはずがない」?

そう考えていた多くのプロの将棋指しがあっという間にコンピュータのAI棋士に追いつかれ、負かされるようになる様は哀れなものでしたよ。「AI棋士は間もなく人間のプロを追い越す」と昔予見できたのは僅かです。

永久機関の開発を目指しても絶対に無理なのは、熱力学の第3法則、通称「エントロピーの法則」に反するからで、もし永久機関ができるなんてことがあったら、既存の物理学が根本から覆る大事件となります。

ところがAIの進化には限界がありません。人間の構成物は炭素、窒素、水素などあり触れた物質であり、そこに「神による神秘の力」は加えられていないのです。我々はただのたんぱく質や脂肪がちょっと複雑な規則性で集合した物体に過ぎず、我々が「思考」とか「心」と呼ぶ現象は電気信号にしか過ぎません。その能力を人工物が超えてはいけないという法則は残念ながら存在しないのです。

どのくらいの時間がかかるかは分かりませんが、いつかは「人造人間」はできてしまうし、別に人間そっくりのロボットが必要ないにしても、人間以上のことができるロボットができるでしょう。

 

無くなっていく人間の仕事

そしてそれを待たずして、今存在する「人間の職業」はどんどん姿を消していくことになります。もちろんこんなことは今始まったことではありません。かご屋、炭鉱夫、電話交換手、昔はあって今はない職業などいくらでもあります。

日本が明治維新を果たして西洋化に向かうと、国内に多種多様な、そして複数の工場ができました(江戸時代に工場がなかったわけではありませんが)。その工場、何を作るにしたって、その中には「工員」がズラズラーっと並んで一心不乱に作業をしていたのですよ。ところが、今巨大な工場を覗いてみても、そこにいる人間の数といえば数十分の1というオーダーでしょうか。オートメーション化が進んで、工員の割合は物凄く減って、ヘタすりゃチェッカーやオペレーターだけで工場は動いてしまうわけです。

さて、かご屋や炭鉱夫や工員は、自分の職業そのものがなくなると予測できたでしょうか?手紙を人間ではなく車や飛行機が、果ては手紙と言う物理媒体を介さずに情報をやり取りするような世の中が来るとどれだけの人が予見できたでしょうか。(ダ・ヴィンチみたいな天才は500年前にヘリコプターの設計図描いてましたけどね)

自分が子供の頃を思い出して「太古の昔」を語り、ほんの数年先を想像して「未来を予見」したつもりになるのが人間というもの。冷静に未来を想像できる人なんてほんの一握りなんですよ。

バブルの頃に銀行に就職した人が、今の銀行が10年後になくなるなんて思わなかったでしょう。

帰宅前のサラリーマンが電話ボックスに入ってテレカを差し込んで愛する妻に「かえるコール」と言うのが平成の頭くらいの都会的な光景でしたが、その10年ちょっと後には国民1人1台携帯電話を持つ時代が来るなんてどれほどの人が想像できたでしょうか。

まずは頭脳面から侵食されていく

そして今のAI時代。本格的に人間の仕事がなくなっていく局面に入りました。それはAIによるものなので主としてソフトウェア面から侵食されていきます。

例えば運転手。これは別の記事で書きましたが、10年後にはもうヤバい。私が乗っている「大衆車」ですら自動運転機能が付いているんだから、10年後のタクシーがどうなってるかなんて言わずもがな。スマホで2~3回タッチすればたちまち家の前に無人タクシーが到着、音声で行き先を伝えると、愛想の良い声で返答し、連れて行ってくれるでしょう。

例えば設計士。家を作りたいなら予め用意されたひな形をを選んで簡単にカスタマイズ。「これで完成!」と決定ボタンを押せば、同時に設計図もできています。これ、技術的には今でもできるでしょう。

例えば医師。日本の医療は制度(政治)上の問題もあってむやみにその進歩の速度を遅くされていますが、総合診療という概念を導入してコンピュータにやらせれば、内科医なんてほとんどが失業するのではないでしょうか。MRIやレントゲンの鑑定だって多分今AIに勝てないのではないかと思います。

人間はあらゆる技術や知識においてロボットに勝てなくなります。そして人間が技術や知識を獲得する意味そのものもなくなっていくでしょう。

情緒的な話は無用

さて、近年「どんな仕事がなくなるか」という話題はあちこちで聞かれますが、その時に邪魔になるのが「仕事は生き甲斐」論です。「仕事をせずとも収入が保証されているとしても私は仕事をする」と、なぜか「望みさえすれば仕事はある」という前提で、人生哲学を語り始める人が必ずこの議論の中で出てきて、さらに無視できない多くの人が「ウンウン」と頷いてしまうのです。

気持ちは分かりますよ。分かりますが、この脈絡でこの話が出てきてしまうところが今の日本を象徴しているんです。

すなわち、「仕事が生き甲斐」「仕事こそアインデティティー」という思考回路を持つ民族性からGAFAが生まれることは決してないのですよ。

 

日本人が持っていた最強の武器は今最大の障害に

敗戦後の焼け野原からわずか40年後、日本は自動車販売台数で世界一となり、その年(1985年)公開の『バック・トゥ・ザ・フューチャー』には“メイドインジャパン”そのものが工業製品の絶対的ブランドであることを示すシーンがあります。この復興の勢いはおそらく世界史上でも稀に見るものであり、その復興を遂げた原動力こそ日本人の勤勉さであったと言えるでしょう。

しかし、「十分に成熟して伸びしろが小さくなった経済」「バブル崩壊」「産業のIT化」の後の日本においては、この日本人の勤勉さという民族性が大きく邪魔をしているようにしか見えません。

考えてみてください。「ハンコを押すためだけに出社するなんてやめようぜ」と行政が言い出すまで、我々はそれを受け入れて、アホみたいに必要もないのに出社していたのですよ。これ、国民のほとんどが1人1台スマホを持っている2021年の話です。

我々日本人の「勤勉さ」とは、「権力を疑わずに言うことに従うこと」に他ならず、キャッチアップ型の成長期においてこの性質は無双の武器になりますが、経済が成熟するにつれ、あるいは産業がIT化していくにつれ、そのメリットは薄弱化するどころか、デメリットに変化していくわけですよ。

日本人にとっての美徳は、労働という苦役を皆で等しく受け入れることであって、労働=生産でなくとも良いわけです。だからハンコひとつ押すためだけに1時間満員電車に揺られて会社に行くことも苦ではないのです。

しかしそれは個々の観念の話であって、社会全体として見た場合、その社会が成長するわけがありません。

「たとえ自分よりロボットの方が優秀になったとしても俺は働く」

ではその労働は何を産み出すでしょうか。今から炭鉱夫をやりますか?本当に何も仕事がなければ、午前に穴を掘り、午後にその穴を埋める“仕事”でもしますか?

真逆の労働観を持つ欧米人に日本人は勝てない

「労働とは神が人類に与え給うた罰である」と言う価値観をベースに持つキリスト教圏の文化において、労働は避けられるなら避けるべきもの。30代でリタイアして稼いだ金で悠々自適に暮らすことこそ善でありスマートであるという認識があるのに対し、日本人は労働なしに自分のアイデンティティーも確立できません。はなから勝負にならないのです。

気持ちは分かるけども、その意識を捨て去らないことには本当の変革なんかできないのですよ。

 

そしてめでたくその変革が成ったとしましょう。その時、日本人が直面するのはまさしくアイデンティティーの問題です。労働は完全にロボット任せになれば通貨なんてものもなくなる可能性があります。消費したいだけして良い、やりたいことをやって良い、と言われても、古いタイプの日本人はうつ病になって自殺してしまいかねません。

 

エラい人は改革を邪魔するのが仕事

さらにオプション的な問題として、日本の官僚は改革が大嫌いということがあります。

これ、また別個に記事を書くつもりなんですが、例えば辛坊治郎氏は、

日本の自動車メーカーは元々自動運転に関して世界トップレベルの技術を持っていたが、官僚が岩盤規制を崩さずジャマばかりしてきた挙句、自動運転の後進国になってしまった。

と何年も前から憤慨しておられます。

例の接待問題とも関わるような感じで仰ってましたが……。

 

こういう官僚の行動原理は、分かりやすい利権の力学も作用しているのでしょうが、元々とにかく保守的な思想を持っているのが日本人だと言うことなのかもしれません。

加計学園問題では、半世紀以上増えていない大学の獣医学部を増設しようとしただけで日本全体が長期間その話題しかテレビで流さないほどの大騒動になりました。

バブル崩壊以降、日銀が金さえすれば!という局面でも日銀は何もせず、「失われた20年」を作ってしまいました。

これらの例については当然利権が絡みます。が、だとしても、その利権勢力の声があまりに大きく増幅されるのは、やはり日本人に超保守的な民族性を持っているからでしょう。

 

 

まとめ

ということで結論は2つ。

●日本からGAFAが生まれる可能性は極めて低い

●労働を奪われた日本人はアイデンティティーを失う

望む・望まざる関係なしに迫りくる産業の大変革に日本人はうまく対応できずにいますが、40代くらいの中途半端な世代はこれからズルズルと引きずるかもしれない上に、アイデンティティーが崩壊して暗鬱な未来しか想像できません。大胆なパラダイムシフトが要求される局面です。

これからの人類に立ちはだかる「2つのフロー問題」
ハラリ『サピエンス全史』、岡田斗司夫『ぼくたちの洗脳社会』、トフラー『第三の波』の紹介。そしてこれからの人類の大問題、「不労」と「不老」という2つのフロー問題を提起します。

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