「常識はずれ」
「読めない」
「子供がかわいそう」
キラキラネームが話題になるたびこういった感想を耳にしますが、そのほとんどは自分の「常識的感覚」から逸脱したものに対する嫌悪感をぶつけているだけで、あまり論理的とは言えません。ここでは、キラキラネームとは何かを分析し、何が間違っているのかを理論的に指摘してみます。
そもそもそんな読み方はない漢字
説明するまでもありません。
黄熊(ぷう)
闘女(きゅあ)
などがそれです。
「薔薇母栖(ばらもす)」とか「序兄(じょにい)」とかならね、それはそれで読めるんだからご自由にどうぞ、です。ただ子供が恥をかくだけで。
最近見た実在が確認された名前では、
月(るな)
騎士(ないと)
というのも。こちらはまだ一般名詞なので、↑よりはマシかもしれませんが、ぐぬぬ…。
ぶった斬りとは何か
これが実に多い上に、「黄熊(ぷう)」みたいな潔さも感じない、かつ日本語を理解していないという点で、個人的には大嫌いです。
いわゆるぶった斬りとは何かというと、有名なのが辻ちゃんとこの「希空」で「のあ」ちゃんですね。
「希」は「の」とは読まないし、「空」も「あ」とは読みません。
それぞれ原形は動詞ですから、その後に活用部分があってこそ意味を成す言葉です。「空く」なら「あ・く」「あ・き」「あ・かない」とその後の活用部分を含めての単語なのです。
「希」の「の」に至っては、国語用語で言うところの「語幹」ですらありません。
そもそも動詞と言うのは漢字伝来以前から存在するものであって、漢字が輸入されたから字を当てたに過ぎません。つまり、「あく」という言葉は(実際この動詞がその時代からあったかどうかはともかくとして)日本人が字を持たない時代から使っていて、そこに「空」という字が入ってきたから対応させたわけです。で、頭の良い日本人は表音専用文字である仮名を発明し、独自の動詞活用を字で表現するために「漢字+活用部を仮名」という形を作り上げたわけですよ。
「“空く”と書いて“あく”と読むなら“空”だけなら“あ”じゃないか」
と言うのは本末転倒、しいて言うなら“アホウ”の“あ”でしょう。
彼らがやっているのは、先人たちが残してくれた貴重な知的遺産を足蹴にする文化破壊行為に他なりません。
「見」を「み」と読んでもいけないのか?
さて、このアホウよりちょっとマシな脳みそを持ってる人はこう突っ込みたくなるかもしれません。
「じゃあ『見』も『み』と読んではいけないのか!」と。
「見る」は原形が2音の上一段活用で、語幹(「み」)だけで体言(名詞の形)になる動詞であり、意味を持ちます。早い話、動詞ではなく名詞なのです。
例えば、「覗き見」など。「母親似」「味噌煮」「薄着」なども同様。
私の知る、唯一の本当の例外は「蹴る」でして、これが体言の形になると「蹴り」であり、「缶蹴り」「後ろ蹴り」などとなります。ところが、「足蹴にする」と言う表現は今や普通の日本語として認められています。「蹴鞠」も「けりまり」と読むべきですが「けまり」ですね。これは「蹴」の使用頻度が高い上に他にこれといって競合する言葉がなかった用例でしょう。
小難しそうに書いてますが、現国で学年最低点を採ったこともある僕が言うのですから、大したレベルではありません。
それに理屈をこねずとも、平たく言えば常識的感覚です。
母音を伸ばしたり縮めたりはよくあること
また、「次郎長(じろちょう)」とか「真央(まお)」など長音の短音化は例外です。
逆のパターン、つまり短音が長音化する形としては「女王」「小路」などがあります。ちなみに「女王」は今でも正式には「じょおう」ですが、慣用を見てみればほとんどの人が「じょうおう」と発音しています。ハッキリ言ってどうでもいい話ですね。「夫婦」「図体」など母音が読みやすいように長くなったり短くなったりするのは、広い意味での転訛であり、これこそ「言葉は生き物」というべき現象でしょう。元々は中国がどう聞こえたかが音読みの始まりですしね。
尊大に見える有職読み
「ゲンドウ」「ユウセイ」のような音読みの名前も流行していますが、これもやめろとは言わないものの、「有職読み」という文化を知らない人が多いのでは、と。
有職読みというのは何かというと、
2.歌人や文芸作家がペンネームとして本名を音読みにしたもの。
3.何かしら特別な役職に就いている人を呼ぶ際に本名を使うのは失礼なので音読みにしたもの。
4.出家した人が現世と決別して使うために名前を音読みにしたもの。
です。
1.の例は伊藤博文(ひろぶみ⇒ハクブン)、安倍晴明(はるあき⇒セイメイ)など。
2.は藤原定家(テイカ)など。寺門ジモンも?
3.は徳川慶喜(ケイキ)など。
4.は例えば隆行(たかゆき)という人であれば「リュウコウ」になるなど。これは「戒名」と言って、普通は有職読みとは区別されるものですが、理念としては同じでしょうからここに含めました。
「金太郎」「健太」「一平」といった古来からある音読み名は言うまでもなく例外であって、こういった名前に有職読みはありません。
要するに有職読みとは、プライベートな個人とは区別して使うパブリックな名前であり、かつ、俗世間とは一線を画した立場にいるという、名乗る側からすれば「覚悟」、呼びかける側からすれば「尊敬」の観念が含まれる特別な呼称なわけです。
現・文部科学大臣である下村博文氏も本名は「ひろぶみ」だそうですが、「ハクブン」と名乗っていますね。政治家という特別な職業に就いた自分の責任感を自認した上でのことでしょう。「何を偉そうに」と言えばそれまでですが。
そもそも音からイメージが掴みにくい名前はどうかと思う
キラキラ世代では「カシン君」「ショウセイ君」みたいな名前の子が結構いますが、これらの響きから何かをイメージするのは難しいと思います。
「アキ」「タカ」「ハル」と言った読みは、それぞれ字にバリエーションはあるにしても、語源は同一で、「アキ」なら明るい、「タカ」なら高尚・神聖、と言ったように漠然ながらもイメージができるのです。
キラキラネームかどうかは置いといて、その音からイメージとしてピンと来ないような名前の付け方はいかがなものかと思います。先述の有職読みという文化を知った上で、覚悟してつけましょう。
じゃあお前の子はどんな名前にしたんだ?
そうですね。偉そうに言っておきながら我が子の名前を教えないのは卑怯というもの。お手本として公表しましょう。
私には5人の子がいて、うち3人は私が尊敬する、諸葛孔明、坂本龍馬、西郷隆盛にちなんで名付けました。
長男:孔明(あなーきー)
長女:坂本(さかもと)
次女:どん(どん)
次男:奔五郎(ぽんごろう;5つの大陸を飛び回る活躍を期待して)
三男:一夫(かずお)
です。
是非参考にしてください。ではまた。
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