スポンサーリンク

バーチャル大阪はなぜダメなのか(後編)

政治・経済

からの続きです。

 

スポンサーリンク

メタバースの祖は『ウルティマオンライン』?

最近「メタバース」という言葉が流行り出して、その脈絡において『セカンドライフ』というオンラインサービスの名を聞いた方も多いと思います。これはメタバースの元祖とされるサービスで、オンラインで文字通りセカンドライフが楽しめるバーチャル空間でした。

しかし、『セカンドライフ』をメタバースの元祖と呼んでしまうと、一部の人は猛烈に「違う!」と叫ぶでしょう。私もその一部の人なんですが、前世紀からオンラインゲームをやっている人の間でメタバースの原型と言えば『ウルティマオンライン(UO)』なのです。

ゲームに疎い人に『UO』がどんなゲームかを説明するのもなかなかしんどいのですが、めちゃくちゃ大雑把に言ってしまうなら、「世界中の人とやるドラクエ」みたいなものです。……という表現をしてしまうと、今現にドラクエオンラインが存在するのでややこしいのですが……。

『UO』はMMORPG(大規模オンラインRPG)と呼ばれ、数百人とか数千人という規模のプレイヤーがネット上の同一空間に降り立ち、同じ時間を過ごすことになります。特にUOはどこまでも自由に「生活」できます。モンスターを討伐しても良し、採掘しても良し、採掘した鉱物から鍛冶仕事をしても良し、家を建てて待ったりしても良いし、商売をしても良い。もちろんそこには、ただお喋りしたいだけの人もいます。

逆にその自由度の高さがとっつきの悪さにもなり、初心者を遠ざけていたところもあります。その後に発売されたMMORPGは、UOを参考に、UOから美味しい所だけを抽出して、もっと分かりやすいオンラインRPGに仕立て上げるというのがひとつのメソッドになっていたと言えます。

そして『セカンドライフ』は、言わば、『UO』の交流機能だけを抽出して発展させたネット空間だと言っていいかもしれません。

 

なぜセカンドライフはブームで終わったのか

その『セカンドライフ』、一時は世界的なブームになり、複数の大手企業が参画しました。日本のメディアでも連日取り上げられました。

え?記憶にない?

そう、メディアが取り上げたのもほんの一瞬でして、『セカンドライフ』ブームは急速に鎮静化してしまいました。

それはなぜか?

答えは簡単。『セカンドライフ』以外に面白いネットコンテンツ、平たく言えば優れたネットゲームが無数にあるからです。

私が前編でそのチャット機能を絶賛した『PSO』でさえ、『モンスターハンター』の登場で利用者は急速に減って行ったのです。

ここでメタバースには大きな課題が突き付けられます。

「交流を第一の目的においた、あるいは特定の目的を設定しないメタバースは成功するのか?」

少なくとも『セカンドライフ』以降、ゲームではないメタバースの成功例をまだ私は知りません。

 

バーチャル大阪に足りないのはゲーム性

ここで「大阪万博や大阪観光業界を盛り上げる」という本来の目的は一旦横に置いて、「バーチャル大阪のアクセス数を増やす」ということに限定して考えてみます。

ゲームに飽きたら、ただ喋るだけのためにログインする。しかし、それも新しいコンテンツには勝てず、長期的に持続させることはできない。

ということがここまでの考察で分かりました。だったらどうすればいいのか。メタバースを利用させ続けるためのポイントは、次の3段階に分けられるのではないかと考えます。

(1)とにかく最初のログインをさせる
(2)ログインの習慣をつけさせる
(3)その習慣を持続させる

「いや、そりゃそうやろ!」と思われるかもしれませんが、この3段階はそれぞれ課題が違うのですよ。

最初のログイン

まず(1)。これは簡単。大阪くらいの行政規模があれば話題になりますので、何かしらイベントをやれば良いんですよね。実際、イベントをやる度に、その時だけはアクセス数が増えているらしいので。問題は、それが終わったらさーーっと波が引いてしまい、利用者が次のログインをしないという点です。

ログイン習慣をつけさせる

ということで(2)の段階になります。これも実は簡単で、ゲームをやれば良いんです。

『PSO』から少し遅れて、セガは『ぐるぐる温泉』というネットゲームを発売しました。これは将棋、トランプ、UNO、オセロ、麻雀と言った一般的なテーブルゲームをオンライン対戦で楽しめるサービスで、そこには特に突飛なアイデアもなく、ただサーバーとキャッチーなインターフェースを用意するだけです。このソフトは3作発売されたので、それなりにヒットしたということでしょう。麻雀なんかやり始めたら本当にクセになりますからね。

バーチャル大阪でもまずこれをやれば良いんですよ。暇を持て余したツイッタラーだったら「じゃあ大富豪でもやるか」ってなるでしょ?月に一度、各ゲームでトーナメントなんかをやって、上位入賞者は1か月間顔と名前が貼り出されるとか。

その発展形として任天堂の『マリオパーティ』やバンダイナムコの『GO VACATION』のようなミニゲームの詰め合わせソフトを参考に、ボーリングだのテニスだのバッティングセンターなんかも設営しましょうよ。

昔、『クレージークライマー』というただビルを登っていくだけのゲームがありましたが、それの通天閣バージョンやあべのハルカスバージョンなんかも面白そうです。

現実に案が出た、道頓堀水泳大会もバーチャル大阪なら簡単にできます。

さらに、今バーチャル大阪では「妖怪の絵を探せ」みたいな、いかにも観光地のやっつけイベント的などうでもいい催しものをやっていますが、そんなレベルじゃなくて、大阪の舞台を活かした『なにわポケモンGO!』みたいなのをやれば良いんです。大阪の街を徘徊する、ヤンキー、歯抜けのおっさん、アニマルプリントのオバハンなどを仲間にして戦って強くしていく。一定レベルまで強くなったら、選ばれし勇者のみが乗れるフェリーに乗って淡路島遠征。その魔城の主である上沼〇美子を何ターンで倒せるかを競うとかね。

そういったゲームで成果を上げたら、『ワイナンバーカード』にワイナポイントが貯まっていき、ポイントに応じてアバターに着せる服や、小さな広告掲載権なんかと引き換えられる。現実の景品と交換できるというのもアリでしょう。

ログイン習慣を長期に維持させる

(3)の「ログインの習慣を持続させる」というのがなかなか厄介でして、『セカンドライフ』は結局それができなかったんですね。

私なら、その期間が万博開催までということであるなら、考えるのは(2)までにします。オプションとして、企業広告を載せてサーバー運営費の足しにするくらいでしょう。

その後はどう発展させましょうか。アメリカ村の洋服屋とかが「バーチャル大阪店」なんかを出します?それって一般の通販サイトより便利になりますかね?バーチャル大阪店でしか買えないプレミア商品を設定したとして、それをずっと続けるメリットってあるでしょうか。

仮に、それらが成功したとして、本来の目的である「大阪万博の盛り上げ」や「観光地としての大阪のアピール」に繋がるでしょうか?

 

メタバースが何かをしてくれる?

……てなことを考えるとですね、皆「メタバース」に夢を感じすぎてないか?などと思うのですよ。ぼんやりと先進的というイメージだけが先行してて、「メタバースだから新しい」と。

似たようなことは1995年あたりにもあったんです。1995年、そうマイクロソフトが『Windows95』を発売した年です。インターネットが一般向けに普及し始めたのもWindows95がきっかけでした。そしてそのあたりからメディアでやたら「マルチメディア」という言葉を目にするようになったのです。

「マルチメディアってすごいよね」
「これからはマルチメディアだ」
「マルチメディアでないと話にならない」

……で、「マルチメディア」って何ですか?

簡単に解説すると、それまでコンピュータで扱われる情報はテキスト(文字)が基本でした。昔のパソコンを思い浮かべてほしいのですが、真っ黒な画面に無機質な文字列が並んでいて、オペレーターはキーボードをカタカタ打つ。これがいかにもコンピュータを使っているという光景だったのです。それがMacやWindowsの登場で「グラフィカルユーザーインターフェース」というのが当たり前になり、さらに扱える情報量が増えるにつれ、遠隔通信でも絵や音声、さらには動画を扱えるようになっていきました。

これが「マルチメディア」なのですが、何のことはない、情報量が増えて情報の質も変わっていきますよってだけの話であり、「マルチメディアが何かをする」というよりは「結果的にマルチメディアになっていった」わけです。

メタバースと言うのも同じようなものだと思っていまして、「メタバースが何かをしてくれる」のではなく、「やってるうちにメタバースになっちゃってた」というものかと。

バーチャル大阪には前者の短絡的なところが窺えてしまうんですよ。「メタバース作ったんだからそこから何かできるだろう」と。

 

メタバースは新しいSNSの形なのか

あるいは交流機能を充実させて、交流を目的とした利用者を増やしますか?

いや、これはね、ちょっと考えてるところがあるんです。例えば学校の教室をイメージしてほしいんですが、教室は常にドアが全開、窓は完全透明。廊下を歩いていると、中で授業をしていたりミーティングしていたりするのが聴こえてくるんです。どんな人達がどんなテーマで話しているのかも外からよく分かります。廊下をぶらぶらしているだけで、面白そうな話題に遭遇して、つい入ってしまう。これ、理想的だと思うんですよ。

しかしこれ、メタバースというより、「バーチャルリアリティー」の話になるんですよね。

「メタバース」という単語で検索してみると、例えばマイクロソフトの『Mesh』という開発中のサービスが出てきます。これも、実はメタバースではなく、いわゆるVRヘッドセットを装着して、例えば自宅にいながら仮想的なオフィスで皆と仕事をしたり、プレゼンできたりするVR環境なんですよ。で、そのVRの空間を広げていくと、結果として「メタバース」になっちゃうよね、と。

そもそも、先述の学校(あるいはオフィスビルでも良いけど)のような空間が再現できたとして、そんな優秀なVR空間、もはや「大阪」という地名なんてどうでも良くなりますわな。

別にやりたいならやっても良いと思いますけどね。でも本気でやるなら予算は数倍要るだろうし、目標は「新しいVR型SNSを作る」となっちゃうでしょう。

 

じゃあバーチャル大阪には意味がなかった?

だったら『バーチャル大阪』には意味がなかったのか?って言うと、それはそれで話は別です。それを評価するためには、「ある目的を達成するのにどのくらいのコストがかかったか」という収支の話になりますから。なんせたったの1億円で(ランニングコストは知りません)作っちゃったんですから、コンピュータ専門学校の学生の課題レベルにしかならないのは当然ですし、そのコストである程度の宣伝効果があったとしたなら、それはそれで良しとすべきだと思います。

ということで、今回のブログに何か刺激的で分かりやすい結論を求めておられた方には申し訳ありませんが、特にありません。タイトルに「ダメ」と書いてあるのも、メタバース単体として見た場合に「特に面白いものではない」という程度のものであって、「意味がなかった」ということに直結するわけではありません。

「大阪にとって『バーチャル大阪』はどういう役割を果たすか」
「メタバースは目的なのか手段なのか」
「メタバースとVRはどう違うか」

読み返すならこういう趣旨に着眼してどうぞ。

 

にほんブログ村 ニュースブログ 話題のニュースへ
にほんブログ村

コメント

タイトルとURLをコピーしました