【前回までのあらすじ】
主従関係の構築を否定する犬のトレーナーさんのブログを発見し、その批判記事を投稿したところ、当該ブログで反論が投稿され、その中に質問があったので、それに答えるのが今回の記事です。
テーマは「仰向け抱っこは必要なのか」。
そのトレーナーさん(瀧沢かいるーさん)のブログの当該記事はこちら。
批判されて考える:「安心感」を与える?仰向け抱っこの意味と必要性について|犬と笑えば
1.仰向け抱っこはいつやるか?
(1)遊びの流れで
(2)他の犬の飼い主に見せる
しつけについてよく質問や相談を受けますが、その時に「これができますか?」と仰向け抱っこを飼い主さんに見せます。
(3)懲罰
仰向け抱っこそのものによる苦痛ではなく、よその人や犬にさかろうとした時や、おやつのもらい方の態度が悪かった時などに、しばらくフリーズさせて、「謹慎」状態にさせます。
2.そもそも仰向け抱っこは必要があるのか?
あります。
(1)うちではシャンプー、トリミング、爪切りなどの手入れに一切業者を使わずに自分でやるのですが、お腹の毛のブラッシングやトリミング、爪切りは仰向けの状態でやっています。他の人がどういうやり方をしているかは存じませんが、うちではそうしています。
(2)仮に(1)のような事情がなくても、先の記事で述べたように、人間と犬との信頼関係の強化や、構築の確認という意図があります。
仰向け抱っこを嫌がるのは犬の本能であると同時に認知錯誤
そもそも犬が仰向けになるのを嫌がるのは、言うまでもなく、骨に守られていない腹が最大の弱点であるからですが、仰向け抱っこそのものは、体重1桁以内であれば、それが直ちに犬に苦痛を与えるものではありません。だからこそ、遊びの挑発やリラックスしている時など、状況によっては犬は自分から仰向けになるのです。
逆に、犬が仰向け抱っこを嫌がる場合、その行為が犬にとって【警戒事案】となっているからで、そこが大問題なのです。信頼関係ができているのに警戒されるとなると、それは大きな矛盾と言うことになります。こちらが安全を保証しているのに嫌悪を感じるというのは、犬側の認知錯誤であり、犬が認知錯誤を起こすのは飼い主の接し方が間違っているということなので、修正すべきものです。
これがもし、「普通にしているだけで人に向かって身を伏せて吠える犬」となると、ほとんどの人は「問題行動」として認識し、それを修正しようとするはずです。「仰向け抱っこを嫌がる」犬を「仰向け抱っこを受け入れる」犬にするということは、方向性として実はこれと全く同じ行為なのです。
もし一度でも、仰向け抱っこという行為の後に何か犬にとって悪いことが起きたのであれば、仰向け抱っこそのものが苦痛になるかもしれませんが、そうでない限り、「身を任せても安全だ」ということを犬は学習します。
反対派に言わせると、まるで私が「仰向け抱っこを拒否したら殴られるから諦めてる」とでも言いたげですが、殴るどころか怒ったこともありません。というか、拒否されません。
触られることを拒む犬たち
もう少し掘り下げてお話を。
動物病院に行って獣医さんに「犬に噛まれることはないんですか」と聞いてみると、当然しょっちゅうある、と。聞いた時点では「何か月も痺れが残っている」と仰っていました。
私の知り合いのある犬は、散歩中は物凄く大人しくて、飼い主以外でも名前を呼べば近づいてくるいい子なのに、家では服を着せようとしたら飼い主にも噛みついたり、あるいは美容院でのトリミングとなると極度に嫌がり、大暴れするため、特定のトリマーさん以外からは拒否されてるんだとか。
また別の犬は、この子もまた社交的で人とも犬ともうまく付き合えるいい子に見えるんですが、(普通の)抱っこをするだけで噛みつこうとします。
例示した2匹の犬は、意識してリーダーウォークはしていないようで、飼い主が合わせる形の歩き方をしています。バシバシ叩くようなしつけもしていません。むしろめちゃくちゃ甘い接し方をしています。ちなみに後者の犬は、以前はもっとひどくて、触ろうとするだけで唸っていました。それを相談されてしつけのやり方を指導したところ、そこだは治ったんだけど、がっつり触ろうとするとやはり怒るとのこと。
「仰向け抱っこ」でほとんど解決できる
この2例の犬や獣医を攻撃する犬を、「ハンドシャイ」に分類するか「アルファシンドローム」に分類するか……ってことを書いても良いんですけど、さほどの意味は感じません。「ハンドシャイ」で検索すると、やたらと「心の病」みたいな大げさなことが書かれてあって、なんかちょっと違うだろと思うのです。実際にトラウマ的な思い出から恐怖症になってしまう事例は、相対的にはそう多くはないと思います。
ちょっとダラダラ書き過ぎてるんで、なるべく早めに結論へ舵を切ります。
仰向け抱っこが出来ていれば、先述のような心配ってほとんどなくなるんですよ。
基本は「プロレス」
先の記事で書いたように、仰向け抱っこは遊びの流れでやることです。その遊びとは具体的に言うと「プロレス」でして、これは犬同士がやる所謂「ワンプロ」の対人間版のことを指します。これについては別ブログで詳しく書いているので、後日コピペするとしてここでは割愛。
要点をかいつまむと、「プロレス」では苦痛を感じない範囲であらゆる肉体的刺激を与え【合い】ます。私の言うしつけ論は、実はこのプロレスで大体片付いてしまいます。
実際の(ショー)プロレスでも、互いに信頼関係があるからこそ「あえて技にかかる」ことができ、呼吸が合っているからこそ、超人的なアクロバット技でも怪我をしません。
それと同様、犬VS人間のプロレスでも、噛んだら噛み返す、噛み返したら相手を上に乗せる、上に乗せたら今度は自分が乗る、なんてことを激しく繰り返します。人間側のOFFの合図でピタっとフリーズ、ONの合図でまた本気かと思うかのような激しさで向かってくる犬を見れば、感動する人すらいると思います。
実際に、よその子犬を相手にプロレスのさわり程度のことをやったら、「うちの犬のこんな表情もこんな動きも見たことがない。飼い主として嫉妬する」と言われたこともあります。
犬は恐怖で支配されている?
その結果どうなるかと言うと……噛み癖がつく?とんでもない。人だろうが犬だろうが絶対に噛まない犬になります。ハンドシャイ、呼び戻しができない、無駄吠え、凶暴、怖がり、こんな問題は全くなくなります。
プロレス中はありとあらゆる肉体的刺激を試します。耳に息を吹きかけ、首元を噛み(歯は立てません)、爪をつまみ、後ろ足の太ももを掴み、手足を伸ばし……等々。仰向け抱っこは、いわばゴールであり、これが出来ればまあ怖いものはなくなります。
恐怖によって支配されてる?
とんでもない。仰向け抱っこの後は何の遠慮もなくまた攻撃してきますし、自分からも仰向けになってきます。犬はプロレスそのものが大好きで、ベッドで寝ているところを、干すために布団を取り上げると決まってスイッチが入り、尻尾を振りながら手をバタバタやり始めます。子犬がやるあのしぐさですね。「時間がないので3分1ラウンドだけ」と相手をしてやりますが。
と、このように(雑な転換)、仰向け抱っこは必要、なのです。
なぜよその飼い主さんに見せるのか
で、よその飼い主さんにその様子を見せてどうするか?
私がやってるプロレスを教えはしますが、まずできません。これは理屈ではなく、犬が好きで、犬をどれほど観察し、犬に噛まれても「気持ちいい」と思える変態性がなくてはできないことだし、マニュアルのようなものがあったとしてもコンマ1秒の間が命のプロレスはマネできないのです。
じゃあそれができない人にはどう指導するかというと、今よりもっと荒っぽくスキンシップを取るように、というようなことを言います。それと、悪いことをした時の叱り方ですね。怒鳴っても叩いても犬は言うことを聞きませんよ、と。これも詳しいことはここでは割愛します。
「仰向け抱っこした上に持ち上げるなんて、落ちるかもしれないことが分かりませんか?」
絶対に落ちません。
あ、「絶対に」という表現は科学的でないので「ハーネスがスポッと抜けて犬が車道に飛び出す確率の1万分の1程度の可能性はあるかもしれません」と言い換えます。
私は、「できるかどうか」を聞くことはありますが、決して推奨などはしません。仰向け抱っこができるようになることは(私からすれば)「良い事」ですが、仰向け抱っこができるようになるために、仰向け抱っこそのものを使うことはナンセンスです。
やるとすれば、先述の通り、プロレスの流れの中でそういう姿勢に持って行くというやり方であり、それさえも目的というよりは、「できるかどうか」を試す意味合いの方がはるかに強いのです。
もちろん、しつけの素人や犬の気持ちが分からない人がやろうとしたら、それは極めて危険ですのでやめるべきです。やれ「これはストレスだ」やれ「これはカーミングシグナルだ」などと腫れもの系のしつけ論者などもっての外です。
仰向け抱っこ+持ち上げは、犬と飼い主の間に絶対的な信頼関係があればこそできるのです。
子供にこそ仰向け抱っこを
さて、余談的にもう一つ、仰向け抱っこを使う理由として、よその子供が「犬を抱っこさせて」と言ってきた場合があります。普通に正面から抱っこさせると、犬は動きやすすぎてちょっとでも嫌なら動いたり、その際に爪で顔を引っ掻いてしまうこともあるかもしれません。
何より一番大事なのは、その子供に「立ち上がっちゃダメだぞ」と教えておくことで、その状態で仰向けの犬を渡してやります。こちらは両手で仰向け抱っこのまま渡し、子供は腕全体を使って仰向けを維持する形です。犬は仰向けの時はなるべく動かないことを学習していますから、じっとしています。しかし子供の腕のサイズが合わない場合などは、態勢が不安定になってそのままコロンと回転し着地することになります。
子供には「立ち上がってはいけない」ことと同時に「よその犬を勝手に抱っこしてはいけない」ことも教えます。以前にうちの犬が、【犬を飼っている】おばさんに正面から抱っこされ、そのまま立ち上がったところ、犬が抵抗して人間の身長の高さから真っ逆さまに落下、危うく大怪我という事態になりました。
子供は放っておくと何をするか分かりませんから、あえて犬・子供双方にじっとせざるを得ない状態(犬は嫌になればそのままコロンと着地)で抱っこさせるわけです。しかもそのやり方はかなりイレギュラーでよその犬でもマネしてみようということもできないので、派生的な事故を防ぐこともできます。
しかも子供にとっては「赤ちゃん抱っこ」と言うことになり、普通に抱っこさせるよりはるかに喜びます。
派生的に書くべきことがたくさん出てきてるんですが、長大になるので、とりあえず質問への返答まで。
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