犬の怖がりを一瞬で治す魔法
日常、よその犬に触れていて実によくあることをご紹介。
つい先日もあったことです。
朝の散歩で初対面の犬がいました。成犬のチワワで、飼い主の女性いわく「怖がりで人に近づかない」とのこと。
しばらく様子を観察していたら、たしかに犬にはおそるおそるも近づこうとしては離れ、を繰り返しています。人間である私が近づいても離れていきます。
そこで私は飼い主さんに一言。
「この子、怖がりなんかじゃありませんよ。むしろその逆、朗らかで外向的な性格です」
すると飼い主さんは驚いて、
「え!なんで分かるんですか!?」
と信じられない様子。
そこで私はリードが持てる距離まで近づき、すっとリードを手に持ち、犬を近づけます。
「あ、すごく暴れますよ!特に男の人はダメなんです」
と飼い主さんは慌てますが、私はお構いなし。引き寄せた犬をそのまま抱っこしました。
ほんの2,3秒バタバタしましたが、その後はおとなしくなりました。
「きっと犬は怖がって動けないだけなんだ」
とでも言わんばかりの表情を浮かべる飼い主さんの顔。
そこで今度は犬を地べたに降ろして、改めて「おいで」と呼んでみます。
すると犬は尻尾を振りながら近づいてきます。
「え?え?何したんですか!?」
と魔法を目撃したかのように驚く飼い主さん。
その犬に私は何をしたのか?
この「魔法」は、怖がりの犬のうち半分近くに通用します。
怖がりの犬が大人しく抱っこさせるようになる魔法のトリックは……すでに書いた通りです。
この子は怖がりでもなんでもありません。
ただそれだけのこと。
前にもここで書いたことがありますが、この飼い主さんも犬が逃げようとする方向にリードを合わせて動かしてしまう人です。つまり、私が犬に近づこうとすると犬が逃げ、その犬が逃げる方向にリードを持っていくから、結果飼い主さんを中心に犬と私がくるくる回るという間抜けなことになります。
私が犬を抱っこできたのは、犬の隙を突いただけではなく、飼い主さんの隙も突いたからです。
ということで、恐がっていたのは飼い主さんだけ。
この犬の生来の性格は明るく、そしてコミュニケーションとスキンシップを求める、精神的に健康な犬です。ところが飼い主さんの方は、
「自分の犬が噛むのではないか」
「相手の犬に噛まれるのではないか」
と余計な心配をして、相手に近づけようとしません。リードは飼い主さんが始終後方から引っ張って緊張したままになっていました。
怖がりでない犬もずっとこれをやられていては、「自分も怖がらないといけないのかな」と怖がるしぐさを見せ、いわば「仮性の怖がり」になってしまうのです。
「知らないから怖い」は「怖がり」とは違う
この子は4歳で、人間で言えば青年ですが、飼い主さんのこの性格のおかげで精神的には幼犬のままでした。
犬だろうが人間であろうがその他の動物であろうが、小さいうちは知らないことだらけで、自分を刺激するあらゆる環境や事物には警戒心を示します。これは動物が生き抜くために持っている本能で、無暗に危険なものに近づいてケガをしたり命を落としたりしないための行動原理であり、「怖がり」とは違います。
いろんなものが怖い幼犬は普通、いろんなものが怖いまま大人にはなりません。なるとしたら、人間の間違った介入があるせいです。
「犬が嫌がることをやってはいけません!ぷんぷん!」
というバカトレーナーもいますが、大間違いです。
怖いものが怖いものでなくなるのは、「知る」ことであり「経験」することです。本来、怖いものではないのに怖いと感じてしまうのは「知らない」からであって、知ってしまえば怖くなくなります。当たり前のことです。
この子が4年間もの間「怖がりの犬」でいたのは、飼い主の思い込みでしかなく、最初から「この子は怖がりなんです」とあいさつ代わりに言ってしまえば、出会った人も遠慮をしてしまうでしょう。結局この子は知るチャンスを逃して、怖がりのままになってしまいます。
私は図々しいので、そんな戯言は無視します。これが私の「魔法」のカラクリです。つまり、魔法でもなければトリックでもない、全ては飼い主さんの思い込みでしかないことを私が証明しただけのことなんです。
でないとこの子のまだ10年以上ある人生は、「怖がり」のまま損をして生きて行かないといけませんからね。
どんどん伝染していく負のエネルギー
飼い主の不安感・嫌悪感はまず自分の犬に伝わります。
よその犬にも興味はあるのに近づけない。
こういう不安定な精神状態を他の犬は嫌います。
中途半端な距離からジロジロ見られてたまにつつかれる。相手の犬にしたらこれほど不気味で無礼な行動もありません。いたずらに相手の犬を怒らせてしまうことになります。
つまり、飼い主の振る舞いひとつで、本来なら仲良く遊べる犬とも遊べなくなるということ。
「犬の嫌がることをしないで!」
の人達はそこを説明しようとしません。
近づけさえしなければ、【一見平和】に見えてしまうのでタチの悪い理屈ですよ、全く。
魔法が通じる条件
では、この「魔法」が通用する際の条件を整理しましょう。
・怖がりが慢性化していない
長年の飼い主の間違った行動(例えば一切よその人や犬に近づけない等)や強烈なトラウマを植え付けた経験(よその犬に噛まれた、人間に虐待された等)がないということです。先天的な性格の問題で怖がりになっているというケースはほとんどありません。
・基本的に飼い主が外向的
飼い主さんが元々内向的で挨拶もできない、ということであれば話は変わってきます。「明るいけど臆病」なら大丈夫。
犬のことをよく分かってそうな人、噛まれても文句言わなさそうな人を見つけたら、積極的に犬を触らせてあげてください。逃げようとする犬にリードを合わせてはいけません。
「魔法」が通用しない犬はどうすればいい?
特にこれといった対処法はありません。
私の親戚や非常に親しい間柄にある人の犬であれば、私が1週間預かるのが手っ取り早い方法ですが、一般論として飼い主さんがすべきことは、説明してもほとんどの場合伝わりません。
犬が慢性的になってしまったことの原因は、ほとんどの場合、飼い主と犬の間に信頼関係が築けなかったことです。たとえトラウマになるような経験があっても、飼い主がまともなしつけをしていれば回復します。でも慢性的な怖がりにしてしまった飼い主にそれを求めてもまず意味がないことで、おとなしくプロに頼んだ方が良いでしょう。
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