人を襲って犬を咬み殺した四国犬の話

攻撃性
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「四国犬」ってどんな犬?

2月7日、群馬県にて飼われていた四国犬が脱走、子供を含む12人の人が咬まれ、トイプードルが咬み殺されるという事故が発生しました。※一応故意ではないので「事故」としておきます。

今回はこの「事故」を腑分けしてみようと思います。

あ、先に豆知識を。

皆さん「土佐犬」って知ってますよね。あれ、実は誤用なんですよ。皆さんが頭に浮かべた「土佐犬」は正式名称を「土佐闘犬」と言いまして、本来の「土佐犬」とは四国犬のことを言います。似ても似つかない犬種ですが、四国犬に闘犬適性を付けさせるために外国の闘犬と掛け合わせ続けた結果、現在のいわゆる「土佐犬」になりました。つまり、いわゆる「土佐犬」とはほとんど洋犬であり、本来の「土佐犬」たる四国犬は在来犬種です。

日本の在来犬種、つまり日本犬は、「世界の犬の中で遺伝子が最もオオカミに近いのが柴犬」ということからも分かる通り、最も古い本能を持ち、しつけの難しい犬種群であると言えます。

これを踏まえた上で。

 

「逃げ出さないようにしていたつもりだった」は本質ではない

この飼い主さん(今は容疑者でしょうが)、「逃げ出さないようにしていたつもりだったが」とコメントしていますが、問題の本質はそこではありません。というか、私の犬のしつけ論からすれば、ベクトルとして真逆です。

犬が「実行犯」となるケースの不祥事においては、第三者から「しっかり繋いでおけ!」という批判がコピペになっていますが、これって根本解決になるどころか、逆効果になるんですよ。と言っても「犬はフリーにしておけ」ということではありません。

大事なことは、犬が【ノーリードになっても安全な存在】になるような育て方をしないといけないということです。厳重な係留(閉じ込め)が必要ということは、もしその状態でなくなった場合に何をするか分からないということを意味します。結局それって「管理はしているけど凶器ではある」ってことで、非常に危険なのですよ。そりゃ犬を15年間飼ってりゃ、リードから手が離れることも家から逃げ出すことも十分あり得るんですから。

 

興奮に慣れさせろ

じゃあどうすりゃいいか?って考えると実に答えは簡単で、犬が興奮するような状況に慣れさせて興奮を制御できるようにすれば良いのです。

うちで飼ってきた歴代の犬はまさにそれを実践して理想的な犬に育ちました。大事なのはパピーから成犬になるまでの生後1年ちょいくらいまでの間(簡単に言えば子供時代)に、とにかく気の済むまで遊ばせてやること、いろんな人や犬に触れさせることです。

うちの場合だと十分な大人になっても私とのプロレスは続けましたが、この幼犬の期間が特段大事です。これは、起きている時間の7割が興奮状態と言っても良いくらい活発な幼犬の運動欲求を満たして「興奮に飽きさせる」効果とともに、「痛い!と言えば口を離す」というようなコミュニケーション能力の育成としても極めて大事です。

そして可能な限り、よその人に触れてもらい、よその犬と交流させること。これをやらないとどうなるか。犬の散歩で道を歩いていてよその犬とすれ違うことがありますが、そのうち半分は興奮状態になります。それが「ソワソワ」レベルであればまだ良いのですが、犬全体の2割くらいは、攻撃性を見せて吠え掛かってきます。

 

逃げる子供を追いかけるバカ犬

お友達の犬の話。ある公園にて。ミニチュアダックスを2匹飼ってたんですが、ちょっと油断してリードを緩く持っていたところ、走る子供を見つけて追いかけ始めたんです。キャンキャン吠えながら。追いかけられてる子供は小学校3年生くらいだったでしょうか。泣きわめいて逃げ回ります。

飼い主は犬の名前を叫びながら必死で追いかけますが、犬はバカで止まらないし、ダックスの脚力に中年のおばさんが追いつくはずもありません。他の犬のお友達の協力もあって何とか止められはしましたが、一緒にいた親御さんはえらい憤慨ですよ。子犬とは言え、犬に慣れていない子供が追いかけられたらそりゃ恐怖だし、そこからどんな怪我をするか分かりません。

その犬は年齢的には十分な成犬です。そして、元々しつけにおいて大いに問題のある飼い主さんでした。特にダックスは無駄吠えや追走など興奮癖があって、私も「飼ってはいけない犬種」シリーズに挙げております。

こういう場合、人間側から見て最も安全な対処法は「ただ止まるだけ」であり、ほかの大人たちも「止まってー!」と叫んでいたのですが、極限の恐怖に支配された子供にそんな言葉が耳に入る余裕などありませんし、聞こえていたとしても逃げようとする本能を理性がカバーするというのも非常に難しい話です。

まだこのダックスの場合は、人間側が止まればキャンキャン吠えるだけで済むのですが、これがしつけのできていない四国犬だと今回のように、縫合が必要なレベルの怪我を負わせてしまうことにもなります。ヘタをすると最悪の事態だって考えられます。

 

「しつけ」とは古い本能を抑えること

先述のダックスに追いかけられた子供同様、今回の四国犬の被害に遭った子供も、どうやら反射的に逃げようとしたことが引き金になったようです。人間側は人間側で本能的に危機回避の本能が働いて逃げようとするのですが、皮肉にもそれがしつけのできていない犬の「古い本能」、すなわち「獲物を捕らえよう」とする反射的欲求のトリガーになってしまったわけです。

こういうシチュエーションに置かれた場合の人間側の対処としては、逃げようとしないこと。もし私が最初に発見していれば、おそらく何事も起きなかったでしょう。まあ捕獲にはそれなりの道具が要るので飼い主の元まで送り届けられたかどうかは分かりませんが、少なくともその場では何も起きないはずです。

それは私が平均的な体格を持つ成人男性であり、犬を怖がっていないからです。犬に慣れていない人は、どうしても逃げようとし、その振る舞いが犬にとっては「獲物しぐさ」として映るのです。私の場合であれば「俺様が本当の飼い主だぞ」という感じで振る舞うので、犬がむやみに興奮する可能性は格段に低くなります。(もちろん、絶対ではありません)

一方、飼い主側の義務としては、そういう犬の「古い本能」を抑えて、理性寄りの新しい本能である「社会性」を増強するようなしつけをすることです。正確に言うと「社会性」もミクロになってしまうと、それが凶暴になることの原因になってしまうので、共同体の大きさを人間同様に広げた「高度な社会性」を身につけさせることが肝要です。

一言で言えば、「どこに行ったってお前に敵などいない」ことを教えるわけですよ。

 

「人懐っこい犬なのに」←本当か?

これ、どういうことかって言うと、犬が「田舎モン」になっちゃってるんですよ。横溝正史の小説なんかだと、四国かどっかの辺境の村で、都会から来たよそ者にやたら干渉したがる地元民みたいな描写がありますが、まさにそれ。幼犬時代に多様な他個体に触れさせなかったことが原因で、ほんの一部の「お友達」以外に強烈な違和感を覚えたまま一生を過ごさなくてはならないのです。

その点、うちの犬は実に都会的です。東京・大阪では人がたくさんいて当たり前。相互に干渉し合うなんてことはありません。あ、すみません、大阪はやたら話しかけてくることもあるので、喩えは東京だけにしましょう。うちの犬にとって、道を見知らぬ犬が歩いているという事実に「違和感」も「事件性」もないのです。これは、幼犬時代に、よその犬を見ればこちらから挨拶に向かって人も犬も安全だということを徹底的に教えたからです。

その点を踏まえて気になるのは、飼い主さんが「普段は人懐っこいのに」と語っていること。これは大いに眉唾です。あなたが普段触れさせていた人はかなり特定されていたのではないですか?ドッグランに連れて行ってましたか?完全に初対面の人や犬と普通に交流できていましたか?

私の想像ではそうではありません。

 

この犬は多分殺処分になるだろうが……

ここからはあくまでざっくり「事故」の情報から私が想像することでしかありませんが。

田舎で四国犬という割とレアな、そしてしつけが難しいと言われる日本犬ばかりを7頭飼っていて、それが勝手に逃げ出して、よその人と犬を咬み、飼い主は「まさかそんなはずは」と。

この飼い主さん、愛犬家でもなければトレーナーでもなく、「コレクター」なのですよ。(くどく言いますが、個人の感想です)

犬を7頭飼っていると、それはすでに「群れ」であり「社会」が出来上がります。これは一見良い事のように思えますが、違います。群れという認識が強くなると、当然その範囲の外の存在は「群れではない」ことになり、くっきりとした境界線ができてしまいます。

4年前にこんな記事を書いています。

要約すると、犬が「群れ」を意識し始めると、古い(余計な)本能が発動して問題行動を起こしやすくなる、ということです。ましてや、本来しつけの難しい日本犬、中でも猟犬の本能が強く残る四国犬であれば何をか言わんや、です。

犬を飼う以上、そこには厳格な主従関係が必要なのですが、多頭飼いになるとその重要性はより高くなり、「強いリーダー」であることが求められます。

さて、今回の「事故」で「実行犯」である四国犬は残念ながら殺処分になるでしょう。では、残りの6頭は?「実行犯」についてはその処分の基準が決まっていて、咬傷事故を起こした犬は行政に報告され、各都道府県知事の判断で殺処分になるわけですが、今回の事故の残りの6頭の処分についてはおそらく何のルールもありませんし、これからも飼われ続けていくでしょう。しかし、この6頭は問題の本質を孕んだままなのですよ。

 

どさくさ「狂犬病ワクチン」推進論

さて、問題を起こした今回の四国犬ですが、さらに狂犬病ワクチンを接種していないことが判明して批判にブーストがかかっています。そして狂犬病に罹ったような「狂犬病ワクチン原理主義者」が実に生き生きとしています。

狂犬病、そしてその予防と言うものをどう見るべきかについては、当ブログでさんざん書いてきましたが、これを機に久しぶりにまとめてみたいと思います。が、長くなるので別投稿で。

一応予告編として、

日本最大の権威である、とある組織の見解を出しておきますね♪

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