今年もまた、誰に求められているわけでもないのにM-1グランプリの感想を述べましょう。
採点と寸評
ヤーレンズ 92
いつものヤーレンズ。去年のコピペでも良いが、細かく、そしてとにかく手数の多いボケの中に、みぞおちに入る強力なパンチ、つまりはキラーボケが2発はほしい。「観客に阿らないスタイル」の漫才だが、その中でも「観客に伝わりやすくする」工夫は必要だろう。
めぞん 91
恋愛相談のネタ。よく練られているがクライマックスの盛り上げ方に失敗。何気ない相談話から聞き手の方のエンジンの回転数が上がってきて……というパターンはチュートリアルなのだが、チュートリアルの場合徳井がどんどんエキセントリックになっていくのに対し、めぞんは「普通の話」の域を超えない。そして終盤に台本を感じさせてしまう。惜しい。
カナメストーン 88
ダーツの旅のパロディ。十分面白いが、M-1決勝戦のネタとしては安直。最初から優勝できないということが分かってしまう。
エバース 97
「車になって」。去年、私が「来年の優勝候補か」と期待していたエバース。さすが。言うことなし。
真空ジェシカ 95
ペーパードライバー講習。もう観客も「真空ジェシカの見方」が分かってきているので、演者と客のチューニングが合っている。いつも通りの真空ジェシカだし、これからもいつもの真空ジェシカでいてほしい。たしか、M-1は「レギュラー番組」でしたよね。川北のXプロフィールも「M-1を主催しています」だし。超高得点はないかもしれないけど、もう、優勝どうでもいい。
ヨネダ2000 90
あややシュート。最初から優勝候補から外して観ると、ヨネダ2000は本当に面白いし、M-1のちょうど良いアクセントになる。ネタ順もちょうどハーフタイムあたりだし。採点発表時でも顔芸でおちょくるあの姿は、「いつ何時どんな場面でも全力でふざける」という姿勢であり、全芸人が見習うべきだろう。
たくろう 96
リングアナ。実はこれまでネタ番組に結構出てて、私は大好きだった。たくろうの面白さに皆が気づくのはいつだろう。ひょっとして気づかれないまま死ぬまでくすぶり続けるのだろうか……と思ったら、ついに見つかった。超逸材。KSD、京都産業大学~!
ドンデコルテ 92
怪しいセミナー。初見だが、またすごいのがいた。ボケの渡辺は40歳にしてM-1決勝初進出。あの社会風刺の入れ方というのは実はめちゃくちゃ高度で、本来ならバランスがめちゃくちゃ難しいところを、台本の作り込みと演技力で黄金バランスを完成させている。ワードセンスも素晴らしく、1ネタにキラーフレーズが2~3本入る。これは強い。
豪快キャプテン 89
ポケットパンパン。元気があって良い。
ママタルト 86
初詣。一見デブ頼みの大味なネタしかできなさそうに見えて、実は小技もしっかりしているママタルト。しかし今回のネタにはどこにも山場がありませんでしたね。
ということで、私の採点順位は、
1位 エバース
2位 たくろう
3位 ヤーレンズ&ドンデコルテ
となりました。いつものことですが、点数って付けてた方がちょっとでも読者が興味を持つだろうと思ってるだけで大した意味はありません。しかしもしエバースとたくろうの1点差に意味があるとするなら、エバースはたった1度の出場歴でプレッシャーを感じてしかるべきというほど完成度が高かった上に、今回はそれを上回ってきたからでしょうね。非常に精緻な王道漫才でした。その差の1点です。
最終決戦の感想
ということで最終決戦。
優勝 たくろう
近年まれに見る文句なしの優勝。1本目のボクシングネタで「なに、こいつら!?」と、たくろうを全く知らなかった観客を至近距離にまで引き付けた後のビバリーヒルズは大爆発。
特筆すべきはそのネタスタイルでしょう。我々はM-1の中だけでも相当新しいネタのスタイルを見てきました。中川家、ますだおかだ、フットボールアワー、サンドウィッチマン、こういったコンビの漫才を「王道」とするなら、ボケ・ツッコミが1回毎に入れ替わる笑い飯、従来のボケツッコミスタイルに属さないのに永久に使えるフォーマットを開発したミルクボーイ、同じく明確なボケがない上にネタ中1回しかツッコまないハライチ、そもそも漫才ではないマヂカルラブリー等々は「邪道」と言えるでしょう。
そしてたくろうはついに、ボケもツッコミもない究極の邪道漫才を開発してしまったようです。ボケの赤木はどこまでも話し相手の圧力に屈する気弱なコミュ障なのに、振られると脳を振り絞って何かしらを答える。そしてそれを、演技なのかマジなのか分からない挙動を見せる。
私は常々、漫才において最も大事なのは演技力であると申し上げていますが、たくろうの演技力は歴代王者の中でもトップレベルでしょうね。地味にボソボソ喋るから目立たないけど、一度ハマったら抜け出せない没入感は、視聴者に二度三度と録画を再生させたことでしょうし、3本目のネタも観たくてしょうがなくなったことでしょう。
準優勝 ドンデコルテ
彼らの評価については先述した通り。怖いのは、まだ全力を出してなさそうな余裕を感じるところです。
一見ちゃんとしてるように見えて「国も認める低所得者」。「社会保険は味方のふりをして近づいてくる」こういったフレーズには政治垢の紳士・淑女の皆さんも腹を抱えて笑ったことでしょう。
このやり方こそが「政治や社会問題を笑いのネタにする」ということであって、ウーマンラッシュアワー(村本)がやっていたことは、「政治的主張をするために漫才というフォーマットを利用していた」に過ぎません。
もちろん、彼は本当に政治や社会問題に詳しいのでしょう。しかし、それはあくまでも手段であって目的は笑いです。この弁えの加減が絶妙なんですよ。
3位 エバース
決勝1位通過したにも拘らず最終決選では無投票に終わったエバース。元々極めてハイレベルで完成されている彼らの漫才がまさかの無投票3位ということで、さて今後はどうしましょう。
「荒削り」ならこれから細かく削っていけば良いんですが、すでに仕上がっているものについては、非常に高度なレベルでの台本作りや演技力の向上を求められることになるんですよね。あるいは「一旦引き返す」(根本からのネタスタイルの変更)ことも考えなければならないかもしれません。
つまり、和牛になっちゃうかもよ!ってことです。
全体の評価
「いやー、本当に今年はレベルが高くて」というのは毎年のように審査員の誰かが使うお世辞ですが、今年のM-1はお世辞抜きで本当にレベルが高かったですね。特に今年が異例だったのは、
・最終決戦の3組が3組とも見返したくなるほど面白い
・にも拘らず、審査員にほとんど迷いを感じさせない勢いで優勝コンビが決定
・最終決戦の3組が3組とも2人が有機的に絡み合っており、「いるだけの相方」がいなかった
・優勝コンビと準優勝コンビが1本目を超えるネタをやってきた
という点です。
個人的な話をすると、過去には、錦鯉、ウェストランド、(優勝はしなかったものの)バッテリィズなど、それなりにテレビに出てて実はめっちゃ面白いのに、売れ方としてはくすぶっているようなコンビが活躍するのは痛快なものです。
当然ながら今回優勝を逃したエバースとドンデコルテには来年も期待がかかるところですが、今回のようなダークホースが他を圧倒して優勝をかっさらっていくことも多いのがM-1の面白いところ。
私も齢をとってきて、もう若い人の笑いのセンスと合わなくなってきているのではないか、「最近の漫才は面白くない」と言いながら自分の感性が老いて腐ってきているだけではないのか。特に令和ロマンが2連覇してちょっとした迷いがあったのですが、そのような頭のモヤモヤを完全に吹き飛ばしてくれた大会でした。
というわけで、また来年。



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